剣道に励む多くの剣士が一度は直面する「テニス肘(剣道肘)」。特に、面打ちの際や、打ち終わりの引きの動作で肘の内側や外側に走る鋭い痛みは、稽古の質を下げるだけでなく、日常生活にも支障をきたします。
私自身、長年剣道を続け、多くの門下生を指導する中で、この肘の痛みに悩む姿を何度も見てきました。剣道六段・錬士としての経験、そしてこれまで培ってきた体の使い方に基づき、痛みを和らげ、稽古を継続するためのセルフケアとサポーター選びについて解説します。
剣道でなぜ「肘」が痛むのか?そのメカニズム
テニス肘と一般的に呼ばれますが、剣道においては「剣道肘」とも言われ、医学的には「上腕骨外側上顆炎(外側の場合)」や「上腕骨内側上顆炎(内側の場合)」に分類されます。
剣道でこの症状が発生する主な原因は、「手首の使いすぎ」と「インパクト時の衝撃」にあります。特に、初心者のうちは力任せに振ってしまいがちですが、高段者であっても、稽古量が増えた際や、打突の瞬間に力が入りすぎていると肘に過度な負荷がかかります。
剣道肘になりやすい動作の特徴
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強すぎるグリップ(握り込み): 常に竹刀を強く握りしめていると、前腕の筋肉が収縮し続け、肘の腱を牽引します。
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インパクトの際の肘の「抜き」不足: 打突時に肘が完全に伸びきった状態で止まると、衝撃がすべて肘関節に伝わります。
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小手技・引き技の多用: 手首を細かく使う動作や、相手を引き離す動作は、肘関節に回旋のストレスを与えます。
「交剣知愛」の精神で稽古を深めるためにも、痛みがある状態を放置せず、適切なケアを行い、体の使い方を再確認することが不可欠です。
痛みを緩和する効果的なセルフマッサージ
マッサージは、硬くなった筋肉をほぐし、血流を促進することで回復を早めます。ポイントは、「痛いところを直接強く揉まない」ことです。
前腕伸筋群・屈筋群のリリース
肘の痛みは、前腕の筋肉が緊張して腱を引っ張ることで起こります。以下の手順でマッサージを行ってください。
| 手順 | 動作のポイント |
| 準備 | 患部を軽く温め、筋肉を柔らかくする。 |
| ほぐし1 | 手のひらを下にし、反対の手の親指で肘から手首に向けて前腕の外側をゆっくり押す。 |
| ほぐし2 | 手のひらを上にし、同様に肘から手首に向けて内側をほぐす。 |
| 注意点 | 骨の出っ張っている部分(顆部)は強く押さない。 |
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実施のコツ: 痛みの出ている箇所よりも、筋肉の「腹(ふくらみ)」の部分を意識してください。少し痛気持ちいい程度の強さで、筋繊維を横に揺らすようにほぐすと効果的です。
稽古前後のストレッチ(ルーティン化)
マッサージと合わせて行いたいのがストレッチです。
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外側を伸ばす: 腕を前に突き出し、手のひらを下に向け、反対の手で手首を手の甲側に曲げる。
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内側を伸ばす: 腕を前に突き出し、手のひらを上に向け、反対の手で指先を自分の方へ反らす。
これらを稽古の前後、最低でも1分ずつ行うだけで、肘にかかるストレスは大きく軽減されます。
剣道特有の動きをサポートする「サポーター選び」
剣道では、サポーターの厚みや素材が「竹刀の握り」や「手の内の冴え」に影響します。そのため、一般のスポーツ店にあるテニス用サポーターをそのまま使うのではなく、以下の基準で選ぶことが重要です。
サポーター選びの3つの鉄則
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薄手でフィット感の高いもの: 剣道着や小手の下に着用するため、厚みがあると小手のサイズ感が変わってしまいます。コンプレッション機能(加圧)に優れた薄手タイプを選びましょう。
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エルボーバンド(バンド型)の活用: 肘の少し下に巻くタイプは、筋肉の腱への負担を物理的に分散させます。剣道では小手の動きを邪魔しない細めのタイプが推奨されます。
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吸汗速乾性: 夏場の稽古や激しい打ち込みを想定し、蒸れにくい素材を選んでください。
タイプ別おすすめサポーター比較表
| タイプ | メリット | 剣道での適性 |
| バンド(ベルト)型 | ピンポイントで負荷を軽減できる | ★★★★☆ |
| スリーブ(サポーター)型 | 全体的に圧迫し、血流を促進する | ★★★★★ |
| テーピング | 動きを制限しすぎず、自由に調整可能 | ★★★☆☆ |
※初心者の方には、まずバンド型を肘の少し下(痛む場所から指2本分下)に装着することをおすすめします。これにより、インパクトの衝撃が腱に伝わるのを軽減できます。
剣道六段からのアドバイス:根本解決のために
マッサージやサポーターはあくまで「対処療法」です。痛みが出ない体を作るためには、やはり「正しい体の使い方」への回帰が必要です。
剣道において最も大切なのは、「肩の力を抜き、肘を柔軟に使うこと」です。
打ち込みの際、肘を「点」で止めるのではなく、少し余裕を持たせ、衝撃を吸収する「遊び」を作りましょう。また、小手先で打つのではなく、足の踏み込みと腰の送りによって打突を行うことが、結果として肘を守る一番の近道となります。
「痛いから休む」のではなく、「痛いからこそ自分の打ち方を深く見つめ直す」。これが、剣道を長く、そして深く愛するための姿勢です。稽古のたびに自分の体と対話し、無理のない範囲で、しかし妥協せずに研鑽を続けていきましょう。
